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新著案内:「感染症ワールドー免疫力・健康・環境―」
第3版 町田和彦著、早稲田大学出版部
(各種資料を最新版に、新型インフルエンザH1N1追加)
( 2010年5月版発売 )
19世紀の中頃になってやっと伝染病の原因を見つけ、20世紀の中頃になってやっとウイルス以外の 感染症に特効薬が表れ、1970年代には時の米国医務総監さえ感染症に対して勝利宣言を行ったほど長い 感染症と人の戦いが終わるかに見えたのもつかの間、1980年代にはそれをあざ笑うかのように感染症の 逆襲が始まった。 それは大きく分けると2つの原因によると思われる。その1つは地球人口の急増と豊かさを求めて人類が 未開発地域の開発を行い、未知のウイルスと遭遇したことであり、もう1つは救命医療の発達から 免疫力の低下した多くの人の出現と抗菌剤の乱用が組み合わされて起こったと思われる突然変異種の 蔓延である。 米国のようにもう開発がし尽くされているような国でもいまだに新たな感染症の出現を見ているところ を見ると熱帯地方では今後もエイズやエボラに匹敵するような恐ろしい感染症の出現もありえるのかも しれない。 しかし、もっと恐ろしいのは人為的な感染症の出現かもしれない。輝かしい未来を誰もが願った 21世紀の始まりの年の9月11日に同時多発テロが起こり、それがイラク占領を契機とし、無差別テロに 変わり、どんな残虐なことが起ころうとももはや誰も止められない様相を示してきた。 生物兵器の開発はいかに安全に多くのヒトに致死量の病原微生物を撒くことが出来るかにかかっている わけであるけれど、もし自爆テロの形でそれが致命的な呼吸器伝染病で行われたら、人類は危機的な 状況に置かれるかもしれない。 2003年に突然起こったSARS騒動はまだ記憶に新しいと思うが、わずか50年程度の短期間の科学 技術の発達により、それ以前の生活では考えられないようなより安全な、より快適な生活を目指し、 その目標をほぼ達成したかのように思ってきた私たち先進諸国の人々に、たった1つのウイルスが人々 にパニックを与えることを認識させ,今また鳥インフルエンザの恐怖が始まろうとしている。 しかしこれは21世紀の人々にとって単なる始まりに過ぎないのかもしれない。 この騒動はこれからの時代に対処するために私たち一人一人が科学技術に依存するだけでなく、自分 自身の努力を怠ってはならないことを警鐘しているのかもしれない。 恐ろしいウイルスも、始めから非常な殺し屋ではない。それどころかどの病原微生物も安定した現状 を望んで、常に弱毒化し、共存を望んでいる。何故なら細菌でもウイルスでも多くのものは動植物に 寄生して生きているわけであるから、宿主である人間が死んでしまったら種の保存の本能のみで生きて いる彼らにとっては危機的状況になるわけである。その証拠にどんな恐ろしい病原体でも驚くほどの 速さで弱毒していくのが普通である。 エイズもエボラもある種の生物の中で共存していたはずである。 そこに未知の動物である人間が突然縄張りを荒らす形で入ってきたので攻撃を始めたと思われる。 今後どのようにしてそれを押さえていくかが今後の課題になってくるわけであるが、それはもはや政治 の世界の問題なのかもしれない。現実を良く知り、その対処方法を学んでいくしか方法はない様に 思われる。 成人病といわれた中年以降に激増してくる疾患がその原因が明らかになるにつれ生活習慣病と いわれるようになってきて、多くの人々がそれに対処すべくライフスタイルを見直すようになった ように、感染症もその原因により対処すべく行動を起こす必要がある。寄生虫からプリオンまで 病原微生物の世界は果てしなく広がっているし、それらの起こす疾病はますます数を増している。 この「感染症ワールド」はその1つずつの疑問に答えてくれるように、様々な話題が提供されている。 皆さんもぜひ体験してみてください。 (早稲田大学人間科学学術院教授 町田和彦) |